スーパーコンピューターは、膨大な数値計算を迅速に処理するために設計されたコンピュータシステムです。その中でも、現在「世界最速」として注目されているのが、米国オークリッジ国立研究所の「Frontier」です。2022年に日本の「富岳」を超え、初めてエクサスケールの計算能力を達成したこのサーバーは、計算能力のみならず、エネルギー効率においても画期的な成果を上げています。本記事では、「Frontier」の技術的な特徴やその役割について詳しく解説します。
本記事の読者層は以下の方を想定しています。
- 技術者やエンジニア、科学技術に興味のある人
- IT関連業界のプロフェッショナルやビジネスマン
- エネルギー効率や環境問題に関心のある一般読者や研究者
世界最速のスーパーコンピューター:最初のエクサスケールシステム
米国・オークリッジ国立研究所(アメリカ合衆国エネルギー省の管轄下でテネシー大学とバテル記念研究所が運営する科学技術に関する国立研究所)は、毎年発表されている最強のスーパーコンピューティングシステム・Top500ランキングで世界の頂点に輝きました。
AMD EPYC CPUで動作するオークリッジ国立研究所 (ORNL) のフロンティアシステム (FRONTIER) は、昨年のチャンピオンであった日本のARM A64X富岳システムから1位を奪取しました。
テネシー州のORNLでの統合とテストのプロセスはまだ進行中ですが、最終的には米空軍と米国エネルギー省によって今後、運営されます。
ヒューレットパッカードエンタープライズ (HPE) クレイEXプラットフォームを搭載したフロンティアは、幅広いマージンを持つことでも最高のマシンです。これは真の意味で、最初のエクサスケール・システムであり、Linmarkベンチマークでピーク1.1エクサフロップに達しました。
このスーパーコンピューターの大きな特徴は、1秒間に1エクサフロップス(1,000,000,000,000,000,000回)の演算が可能であるという点です。この「エクサスケール」という概念は、それまでのペタフロップス(1秒間に1,000兆回の演算)を遥かに凌駕し、次世代の計算能力を象徴するものです。
また、「Frontier」はAMD EPYCプロセッサとHPE Cray EXプラットフォームを採用しており、計算能力のみならず、1ワットあたりのエネルギー効率においても業界最高の水準を達成しています。
「Frontier」の技術的特徴と構成
「Frontier」のハードウェア構成は、スーパーコンピューティング分野における最新技術をフル活用しています。まず、メインの処理を行うのは、AMDのEPYC CPUであり、これは高いパフォーマンスと省電力性を兼ね備えたプロセッサです。さらに、HPE(ヒューレット・パッカード・エンタープライズ)のCray EXプラットフォームが全体の計算環境を支え、高速なデータ転送を可能にしています。
計算性能の具体的な数値 「Frontier」は、Linpackベンチマークにおいて1.1エクサフロップスのピークパフォーマンスを記録しており、前任の世界最速であった日本の「富岳」の442ペタフロップスを大幅に上回っています。この数値は、理論的な最大性能を示すものであり、実際の科学技術計算においても圧倒的な能力を発揮します。
「世界最速」の意味とは?エクサスケール・システムの重要性
エクサスケール・システムは、従来のコンピューターが処理できなかった膨大なデータやシミュレーションを短時間で処理することができるため、特に医療、気象予測、宇宙探査など、極めて高度な分野での応用が期待されています。具体的な例として、COVID-19の治療法の研究や、気候変動のシミュレーション、核融合エネルギーの開発などが挙げられます。
従来のスーパーコンピュータが数ヶ月を要していた研究課題が、「Frontier」では数時間や数日で解決されることが可能となります。この「世界最速」という技術的進歩は、次世代の科学技術におけるブレイクスルーをもたらすでしょう。
日本の「富岳」との比較:性能の差と今後の展望
昨年まで、Green500は、1位がPFNと神戸大学が共同開発したMN-3システムで、2位が米NVIDIAの「Selene」で、消費電力性能がそれぞれ、1ワット当たり39.38ギガフロップスと20.518ギガフロップスです。
日本の「富岳」も、かつてはTOP500のランキングで世界最速を誇っていましたが、2022年に「Frontier」にその座を譲りました。富岳のピーク性能は442ペタフロップスであり、これは「Frontier」の約半分の計算速度です。それでも、富岳はCOVID-19対策や自然災害予測など、日本国内外で重要な役割を果たし続けています。
「富岳」は理化学研究所と富士通が共同で開発し、特に日本国内の多岐にわたる研究プロジェクトで活用されています。空中飛沫のシミュレーションや気象モデルの計算においては、非常に高い信頼性を持っています。
一方、「Frontier」はさらに高性能であり、特にエネルギー効率においても大きな進化を遂げています。1ワットあたり52.23ギガフロップスという数値は、エネルギー消費が重要視される現代のスーパーコンピューティングの新しい基準を打ち立てました。
スーパーコンピューターの未来:エクサスケールからゼタスケールへ
「Frontier」の登場により、エクサスケール時代が本格的に到来しましたが、業界はすでに次のステージである「ゼタスケール」への展望を見据えています。ゼタスケールは、エクサスケールのさらに上位に位置するシステムで、1秒間に1ゼタフロップス(1,000エクサフロップス)の演算が可能となります。この技術が実現すれば、シミュレーションやAIの訓練が飛躍的に高速化され、未知の科学分野が新たに開拓されることが予想されます。
Frontierの詳細:https://www.olcf.ornl.gov/frontier/
過去の世界最速コンピューター・世界ランキング
以下GREEN500の近年の最速コンピューターの世界ランキングです。
- 2023年11月:1位 Henri (2022年製造) USA
- 2023年06月:1位 Henri (2022年製造) USA
- 2022年11月:1位 Henri (2022年製造) USA
- 2022年6月:1位 Frontier TDS (2021年製造) USA
- 2021年11月:1位 MN-3 (2020年製造) JP
- 2021年6月:1位 MN-3 (2020年製造) JP
まとめ
「Frontier」は、2022年に登場した世界最速のスーパーコンピューターであり、1秒間に1エクサフロップス(1,000,000,000,000,000,000回)の計算を可能にした初のエクサスケールシステムです。日本の「富岳」を抜いてトップ500ランキングで1位を獲得し、その圧倒的な計算能力とエネルギー効率においても画期的な成果を収めました。
次回の記事をご期待下さい。どうぞよろしくお願いいたします。
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